
パンタライモンはサルのしつこい手からふりほどき、よろめきながらライラの腕の中にとびこんだ。「だめ、だめ」ライラはパンタライモンの毛に向かって息をはいた。パンタライモンは、ドギトキと打つ胸をライラの胸におしあてた。ライラとパンタライモンは、無人の海岸でふるえている難破船の生存者みたいに、しっかりとしがみつきあった。
現実の世界に似た並行世界が舞台で、主人公のライラは事故で両親を亡くし、叔父によってオックスフォードの学寮に預けられている。
女の子ではあるけれど、悪戯好きで他の子供たちのボス的な存在のライラは、大学の教授達や職員達をいつも困らせている。
他の寮の子供たちや、町の子供たち、更には船上生活集団であるジプシャンの子供たちと常に抗争を繰り返しているのだが、そんな子供たちが急に行方知れずになって行く。
ライラはこの神隠し事件を調べようと思い立つのだが、学寮長の勧めでコールター夫人と呼ばれる知的で美しい女性に引き取られてから生活が一変し、次第に事件のことを忘れかけるのだが・・・
この並行世界と現実世界の一番大きな違いは、人間が皆「ダイモン」と呼ばれる守護精霊を持っていること。
ダイモンは何らかの動物の姿形をとっており、思春期前の子供に属するダイモンは様々な動物に変身できるのだが、大人になるにつれて姿形が一種類に固定していく。
そして、このダイモンと主人は常に一緒に居て、引き離されたりすればどちらも死んでしまうと信じられているのだ。
あまりに特異な設定なので、他に引き合いの出しようがないが、この世界における主人とダイモンの関係の親密さに納得できれば、とても面白い作品だ。
表題の「黄金の羅針盤」は、ライラの冒険行を助ける真理計と呼ばれる機械で、機械時計や羅針盤似ているのだが、円周に沿って描かれた36の図象と、それを指し示す数本の針で出来ている。
機能から見れば「自動式タロット占い」で、正しい質問をすれば必ず正しい答えを示すという究極の道具だが、タロットと同様に1つの図象が幾つもの意味合いを持っているので、万能と言えないのがミソ。
また、キリスト教の教義に関わる深遠なテーマを扱っていてもいるのだが、あまり深刻に受け止めずに単なる冒険ファンタジーとして充分に読めるあたりが凄い。